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コラムカテゴリ:泌尿器科
前立腺癌の手術治療と術後の生活
公開:2025.02.28
更新:2025.03.11
閲覧数:45view
前立腺癌の手術治療
前立腺癌は悪性度・進行度や年齢・全身状態によって経過観察から積極的治療まで幅広い治療選択があります。転移のない場合の根治的治療には、手術治療と放射線治療があります。どちらも利点・欠点がありますが、
①手術治療の方が放射線治療より治療予後が良いとの報告がある
②放射線治療後の再発に対して手術は難しいが、術後再発に対して放射線治療は可能である
③長期間にわたり放射線性出血性膀胱炎・直腸炎が発生する可能性がある
④摘出した前立腺の病理検査で詳細な評価が可能で、術後のPSA経過観察が容易である
などの理由から当院では手術治療を積極的に行っています。前立腺の腹腔鏡手術およびロボット支援手術の施設認定を受けて、保険での治療を行っています。
全身状態から手術が難しい方や手術を希望されない方には、関連病院での放射線治療を行っています。
前立腺癌手術その変遷
他の領域の癌と同様に、「癌が前立腺内にとどまっている状態」の場合、前立腺をすべて摘出することが前立腺癌の根治が期待できる最も有効な治療です。 前立腺は下に示すように、膀胱と尿道の間にあります。これを摘出して膀胱と尿道を縫合するのが前立腺全摘術です。人工肛門のように排尿の状態が変わることはありません。
前立腺全摘術も手術器具の進歩に伴い、開腹手術→腹腔鏡手術→ロボット支援手術と変遷してきました。
その変遷により、輸血の必要性は減少し、尿道カテーテル留置期間・入院期間が短縮されてきています。また、術後の生活に最も影響する“尿もれ”もロボット支援手術ではほとんど認めなくなってきています。当院では2011年から腹腔鏡手術を、2013年からロボット支援手術を行っており、良好な成績をあげています。
前立腺全摘術(従来の開放手術・小切開手術)
下腹部に20cmくらいの皮膚切開を入れ、前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道を吻合します。手術後は膀胱にカテーテル(柔らかい管)を挿入し、1週間程度で尿道造影検査後にカテーテルを抜きます。 術後合併症として勃起障害が起こる可能性があります。これは前立腺の周辺に勃起に関わる神経があるため、手術の際に神経が傷ついて起こるものです。また手術の際に前立腺と尿道括約筋をはがすため尿失禁が起きますが、徐々に改善します。最近では手術法が進歩しているため、こうした後遺症のリスクは減ってきています。ただ、前立腺は骨盤の奥にあるので操作が制限され、ほとんどの場合輸血(自己血主体)を必要としていました。入院期間は手術後2週間以上要していました。
腹腔鏡下前立腺全摘術
腹腔鏡下手術とは内視鏡で行う手術の事で、上記のようにお腹を大きく切らずに小さな穴を5~6箇所開けて直径5~12mmのトロカーと呼ばれる筒状の器具を通して行う、負担が少なくてすむ手術です。傷の治りが早く術後の痛みが少ないため術後回復が早いことが特徴です。また従来の手術に比べて出血が少なく、内視鏡で拡大して細かい手術操作を行えるため尿失禁や勃起障害の頻度も軽減するメリットがあり普及しつつある術式です。ただし出血が起こった場合は開放手術より止血に手間取ることもあります。腹腔鏡手術では操作が難しい場合、出血や他臓器損傷などのときには、従来の開放手術に切替えます。 良好に経過すれば術後10日前後で退院可能です。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術
腹腔鏡手術と方法は同じで、操作する鉗子の自由度が格段に高く、内視鏡も3D画像で拡大視野での手術が可能です。拡大視野のため血管などが確実に処理できるため、自己血輸血も必要なくなりました。ロボットアームでの縫合のため、手術後3-4日で尿道カテーテルを抜くことができ、7-8日目に退院することが可能になっています。正確な縫合のため、尿漏れの頻度は極めて低くなっています。ただ、手術中にロボットに不具合が生じた時や、下腹部の手術既往がある方、眼圧が高く手術中の頭低位が難しい方は腹腔鏡手術が選択されます。
腹腔鏡手術・ロボット支援手術で起こりうる合併症
ロボット支援手術でも合併症が起こる可能性はあります。一般的な合併症と内視鏡手術特有の合併症があります。
出血に対する輸血の可能性
前立腺は血流の豊富な臓器で、勃起神経の温存を図る場合などは手術中の出血が多くなる可能性があります。開腹手術・腹腔鏡手術の場合は手術前に自己血を800ml蓄えて、ほとんどの症例で使用していました。ロボット手術の場合は、3Dによる視野と鉗子の操作性の向上で、手術中の出血は極めて減っています。念のため自己血を400ml準備していますが、使用した症例はありません。
他臓器の損傷
手術中に前立腺周囲の腸や膀胱・尿管などを傷つける可能性があります。前立腺の後ろのある直腸は、前立腺の組織検査で針が通っているところでもあるので、約3%の確率で損傷することがあると報告されています。ロボット支援で修復しますが、1週間程度の絶食と尿道カテーテル留置が必要となる場合があります。直腸損傷がひどい場合、開腹手術への移行と人工肛門を造設が必要な場合があるとの報告がありますが、当院では1例もありません。
術後の腸閉塞・腹膜炎
ロボット支援手術は操作が腹膜内からになるので、術後に腸が癒着し、通過が悪くなり再手術が必要になることや、小さな腸の傷ができて手術後に腹膜炎となり再手術が必要になる場合があります。現在のところ当院ではありません。
後の創部離開・創感染・創ヘルニア
創部感染のため傷の処置が必要になることもあります。創ヘルニアは筋膜がゆるんで、腸が皮膚のすぐ下に出てくる状態で、再手術が必要になることがあります。開放手術より腹腔鏡手術・ロボット支援手術では起こりにくいと考えられます。
術後の肺梗塞
一般にエコノミークラス症候群と言われている合併症です。手術中体を動かさないので、おもに足の血管中の血液が凝固し、歩き出した時に血塊がはずれて、血管の中を流れて肺の血管を閉塞する、重大な合併症です。すべての麻酔・手術で起こる可能性があり、予防するために、手術中から安静解除まで下肢に弾性ストッキングを巻き、足をマッサージする装置をつけます。
皮下気腫・ガス塞栓
内視鏡手術に起こる合併症です。内視鏡と組織の距離を確保するため、二酸化炭素を送り気腹の状態にする必要があります。この二酸化炭素が皮膚の下にたまって不快な感じのすることがありますが、数日で自然に吸収されます。陰嚢が膨らむこともありますがこれも数日で自然に吸収されます。
また、二酸化炭素が血管の中に入って肺の血管を詰まらせる合併症がガス塞栓です。まれではありますが危険な合併症です。当院では発生したことはありません。
術後の排尿状態について
前立腺は、頭側は膀胱と、足側は尿道とつながっており、尿道側には前立腺に接するように尿道括約筋が存在していますが、その位置や形態は個人差があります。この前立腺を取って膀胱と尿道を縫合します。ロボット手術になり、詳細な観察と膀胱尿道縫合が的確になったことから、術後7日目の退院時には失禁率がほとんどの症例で5%以下でした。(失禁率:1日失禁量/1日排尿量)
ただ、やむを得ず括約筋を前立腺から剥がさなければならない場合があり、術後の尿失禁(おなかに力を入れると漏れる腹圧性尿失禁)が強い方でも、骨盤底筋群体操や尿道を締める薬などで対応します。尿失禁はすぐに改善しなくても術後1~2年かけて徐々に回復することもあります(術後1年で約95%の患者さんがパッドなしで生活されています)。 また逆に膀胱と尿道の縫合部が狭くなり尿が出にくくなり、処置が必要になる場合もあります。(5%程度の方で)
術後の性生活について
前立腺は男性だけの臓器で、勃起に関する神経が前立腺に接して走行しています。前立腺癌が最初に広がっていくのが、この神経周囲のリンパ管(神経血管索)です。癌の治療を考えるなら、この神経血管索を切除した方が根治性は向上します。ただ男性にとって重要な要素であり、癌が左右どちらかにだけある場合や神経から離れているところにある場合は神経を温存することをトライします。ロボット支援手術はこの範囲で最も力を発揮できる可能性があります。ただ前立腺が周囲と癒着しているときには温存できないことや温存できた場合でも電気メスの影響などにより神経が傷つけられてしまうこともあり、当院でもまだ勃起可能は4割程度です。神経の改善速度はゆっくりしており1~2年かけて回復する例もあります。神経温存しても勃起能力が回復しない場合はバイアグラ、レビトラやシアリスなどの薬物療法で対応します。 勃起できたとしても精液を貯める精嚢腺は摘出しているので、射精はできません。
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